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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)417号 判決 1988年11月16日

控訴人 東京実業株式会社

被控訴人 国

代理人 坂田栄 赤穂雅之 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2(主位的請求)

横浜地方裁判所が同庁昭和六〇年(ケ)第四六三号不動産競売事件につき作成した配当表中、被控訴人の配当順位を第三順位として配当すべき金七二五万八五七二円とあるのを取り消し、控訴人の配当順位を第三順位として控訴人に同金額を配当すると変更する。

3(予備的請求)

被控訴人は、控訴人に対し、金七五五万八五七二円及びこれに対する昭和六二年七月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決

二  被控訴人

控訴棄却の判決

第二当事者双方の主張及び証拠関係

原判決四枚目表一行目の「昭和六〇年九月九日」を「昭和六〇年五月七日」と、原判決六枚目表三、四行目の「滞納処分と強制執行との調整に関する法律」を「滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律」と、それぞれ改めるほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所も、原審と同じく、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきものであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決七枚目裏五行目の「国税徴収法八三条三項」を「国税徴収法八二条三項」と改める。

二  原判決七枚目裏七行目の「判決する」の次に「(なお、滞調法二〇条、一七条、一〇条三項に基づく交付要求の場合においても、交付要求の解除を請求するかどうかの判断に供するため、質権者等に対し、交付要求をなした旨及びこれに係る国税の金額等所定の事項を通知する必要があると考えられる。)」を加える。

三  原判決九枚目表一行目の「そうすると」から原判決一〇枚目裏一行目の末尾までを次のとおり改める。

「そして、前判示のとおり国税債権は原則として他の債権に対する優先的効力を有するものであるが、これに劣後する担保権者が右の交付要求をなした旨の通知を受けて交付要求の解除を請求し、これが税務署長に容れられた場合には、当該財産に関しては国税債権の配当要求の効力が消滅し、担保権者の優先権が復活するものとされている。このように、国税債権の優先的効力と私法秩序との調整を図るという国税徴収法の基本的な理念(同法一条参照)に基づき、国税債権に劣後する担保権者を保護するため、これに交付要求の解除を請求する機会を与える交付要求通知の制度の趣旨にかんがみると、交付要求の通知の欠如が交付要求の効力に何らの影響を及ぼすものではないと解するのは相当ではなく、交付要求の解除の要件(同法八五条一項)を満たしており、担保権者においてその請求をしていれば交付要求が解除されたであろうと認められるにもかかわらず、交付要求の通知がなされないため交付要求の解除を請求する機会が失われたという場合には、交付要求の効力は否定され、国税債権は右の被担保債権に対して優先的効力を有しないものというべきである。(これに反し、解除請求がなされたとした場合の具体的な解除の可否を検討することなく、交付要求の通知がなされなかつた場合には常に国税債権の優先的効力が否定されるとする見解は、当裁判所の採用しないところである。)。

これを本件について見るに、<証拠略>によれば、滞納者である訴外加藤建設は、被控訴人が交付要求をした当時、原判決添付物件目録二記載の各土地を控訴人主張の形態(予備的請求原因(四)参照)で所有していたところ、右各土地には訴外株式会社盛光のための譲渡担保権が設定されていて、その譲渡担保権の存否をめぐつて係争が生じており、また、右各土地は鎌倉信用金庫の根抵当権等の第三者の権利の目的となつていた事実を認めることができる。そうすると、本件においては交付要求の解除の要件である「滞納者が他に換価の容易な財産で第三者の権利の目的となつていないものを有して(いること)」(同法八五条一項二号前段)との要件を欠くことになるから、仮に控訴人において交付要求の解除を請求していたとしてもこれが容れられたとは到底認められず、交付要求の通知を欠いたことは本件の交付要求の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。(なお、当時、訴外加藤建設が右各土地以外に換価が容易で第三者の権利の目的となつていない財産を有していたと認めるべき証拠はない。)。

したがつて、控訴人の主位的請求は理由がない。」

四  原判決一〇枚目裏三行目の冒頭から原判決一一枚目裏六行目の末尾までを次のとおり改める。

「前記のとおり、控訴人において交付要求の解除を請求していたとしても、被控訴人(横浜南税務署長)がこれに応じて交付要求を解除したとは認め難いところであるから、これと異なる前提に立つて交付要求の通知の欠如により損害を被つたとする控訴人の予備的請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。また、控訴人が競売に係る売却代金を配当金と相殺する意図のもとに入札し落札したと主張する点(予備的請求原因(五)参照)については、具体的な財産上の損害が発生していない(なお、売却代金を支払つて競売物件を取得すること自体によつては、特に損害が生じるものではない。)以上、このような入札の動機に関する事情を理由に精神的損害を被つたとしてその賠償を求めることもできないものと解される。」

よつて、右と結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森綱郎 小林克已 河邉義典)

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